Contents. 2022.4.26.

and 東京マラソン Vol.01

たくさんの共感とともに
東京マラソンがつくる、新しい未来

2022年3月6日(日)に開催された東京マラソン2021では、大会で使用されたペットボトルを2年後のボランティアウェアにアップサイクルするというプロジェクトが新たに始まりました。一般財団法人東京マラソン財団(以下、東京マラソン財団)、マラソン大会の当日ボランティアの皆さんにそれぞれ行ったインタビューとともに、&+®の意義や今後の可能性についてご紹介します。

©TOKYO MARATHON FOUNDATION

東京マラソンにおけるサステナビリティ

東京マラソンでは、大会を通じたサステナビリティへの取り組みを多方面から推進しています。たとえば、年号表記を入れないボランティアウェアを採用することで、大会年度に関わらず着用することができます。大会運営に必要な車両の一部にEV(電気自動車)を使用し、CO2排出量の削減にも努めています。そのほか、大会フラッグのリユースや水循環手洗いスタンドの設置により排水を減らす取り組みも行っています。

東京マラソンにおいて&+®の取り組みを始めるようになった背景には、スポーツイベントにおけるサステナビリティが深く関わっています。東京マラソン財団の猪原崇史氏にお話を伺いました。

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―東京マラソンがサステナブルな取り組みをするようになったきっかけはどんなことでしょうか。

東京マラソンは大規模なイベントなので、当初から「ランナーだけのイベントにしてはいけない」という話はありました。ボランティアや沿道で応援してくれる人たち、そしてまったく関係のない人たちも含めて、いろんな人にとって意義深い大会にしなければならないということです。2011年に東京マラソンが「アボット・ワールドマラソンメジャーズ(※)」に入ったことで、こうした取り組みがさらに推進していきました。私たちとしてもSDGsなどへの理解を深めていきたいと思うようになりました。

※アボット・ワールドマラソンメジャーズ……世界で最も名高く大規模な6つのマラソン大会のこと。東京のほかに、ボストンやロンドン、ベルリン、シカゴ、ニューヨークのマラソン大会がある。

―スポーツイベントとサステナブルには、どんなつながりや関連性があると思いますか。

当財団では「走る楽しさで、未来を変えていく。」というビジョンを掲げています。「走る」ことを起点として、東京マラソンだけでなくいろいろな事業を進めています。私たちの考え方は、健康経営の推進や地域活性化などの社会的課題に向き合いながら、よりよい社会の実現に貢献したいということ。今年の秋に向けて新しいスポーツイベントも計画中です。こうしたイベントを通して、財団だけでなくパートナーシップ企業の取り組みも発信していきたいと考えています。

―ウェアの着用なども含めて、アップサイクルの取り組みに実際に関わっているボランティアについて、話をお聞きかせください。

ボランティアのなかには、走る人もいれば走らない人もいます。走らなくてもイベントに関われるということは、とても重要だと思っています。ランナーのためのイベントにしてしまうと、これだけの大きなイベントにはなり得ない。みんなにとって意義深いものにすることが大切だと感じています。

自分は走らないけれど、走っている人に勇気づけられるという人は多いです。ボランティア同士でコミュニケーションが生まれて、そこで仲良くなった人たちが1年後に再会することもあります。同窓会のように、毎年会うのが楽しみだという人もいます。

ちなみに、ボランティアの数は例年だと約1万人。今年はコロナ禍での開催ということもあり、約7500人ほどです。

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―今回の東京マラソンでは、給水所で使用されたペットボトルが、リサイクル繊維&+®になり、ボランティアウェアとして生まれ変わるという取り組みが新たに行われました。

私たちもとてもいい取り組みだと思っています。アップサイクルの取り組みを東京マラソンで活かすとどんなことができるか、というものです。東京マラソンで出るペットボトルのゴミの量は、1.5~2トン。今年は参加するランナーが少ないので1.5トンになりそうです。今回の大会で回収したペットボトルが、2年後の大会のボランティアウェアとして帰ってくる。ボランティアの皆さんにとっては「自分自身も関わっている」「一緒に関わっている」という意識が芽生えてくるのではと思っています。

©TOKYO MARATHON FOUNDATION
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―ボランティアの人たちがアップサイクルの魅力を感じて、周りの人たちに伝えていくだけでも取り組みが広がっていきそうです。今後、ウェアだけでなくほかのグッズにもサステナブルな素材を使う予定はありますか。

今回の大会では、給水コップの一部に環境配慮された素材を使いました。ランナー受付の際にランナーが持ち帰る袋には、東レさんと協力して植物由来の素材エコディア®を使用しています。ほかにも、大会フラッグや街頭バナーにも可能な限りエコな素材を使いたいということで、東レさんに提案してもらっています。今後の予定として決まっているものはありませんが、できるものから少しずつ移行していきたいと考えています。

―東京マラソンでの取り組みを受けて、各地のマラソン大会への影響や、環境と社会の変化について期待することがあればお聞かせいただけますか。

ありがたいことに、東京マラソンは国内・世界各地からいろんな人が参加してくれるイベントになっています。一人ひとりがSDGsや社会的課題に目を向けるきっかけになればいいなと思っています。小さな一歩が大きなムーブメントにつながることを信じて、未来に向けた取り組みの輪が広がっていくことを期待しています。

東レと東京マラソン

なぜ東レが東京マラソンに協賛し、このアップサイクルプロジェクトに携わるようになったのでしょうか。

東レが東京マラソンに初めて協賛したのは、2011年のこと。これには当初から大きな意義があり、単なる社名の露出ではなく、スポーツ振興を通じた社会貢献の実現を目指してきました。ほかの協賛スポーツイベントと東京マラソンの大きな違いは、大会に使用されるアイテムの素材を数多く提供しているということ。たとえば、ランナー用の手さげ袋やボランティアウェア、過去にはランナー向けのTシャツ(提供:株式会社アシックス)にも素材を提供していました。

すべての取り組みに共通しているのは、持続可能性とエコという視点。以前は手さげ袋やボランティアウェアには、植物由来繊維エコディア®を使用してきました。今回の東京マラソン2021では、大会関係者の皆さんのご協力により、回収ペットボトルを原料とする高付加価値繊維&+®によるボランティアウェアの取り組みを始動。大会で使用したペットボトルの本格的な回収と、東京マラソン2024に向けた完全リサイクルに着手することができました。エコディア®だけでなく&+®が加わったことで、幅広い取り組みができるようになりつつあります。

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・ &+®のこれからの展開

イベントとしての取り組みは今回が初めてであり、これをきっかけに社内での周知もさらに高めていく予定です。今年3月から始めたのが、国内にある15の工場・事業所の自動販売機付近にあるペットボトルの回収ボックスにおける取り組みです。飲料メーカーさんにご協力いただき、「ペットボトルを繊維に」というステッカーを貼り付けました。その結果として「ペットボトルが&+®になる」ことを意識していなかったような人から、「ペットボトルを洗って捨てるようになった」などの声も届くようになりました。こうしたことからも、取り組みが啓発活動につながっている様子が感じられます。現在は社内だけの取り組みですが、これが社会全体にも広がっていくことを期待しています。

・ ペットボトルが抱える課題とアップサイクルの取り組み

自動販売機やペットボトルの課題は多く、近年行政やメーカーがさまざまな取り組みを進めています。今回のアップサイクルの取り組みは、生活者が洗って回収することで質の高いリサイクル原料になり、それが高品質な繊維になるというもの。これは東レのテクノロジーによって支えられている部分も大きいです。
東レはモノをつくる企業として、創業以来、事業を通じた社会への貢献を目指しています。2050年のカーボンニュートラルを見据えた場合に、これまでの発想にはない革新的な技術の開発が必要不可欠であり、その柱のひとつが、循環型経済への貢献だと考えています。&+®の生産技術では、繊維を作る技術だけではなく、良質なリサイクル資源を安定的に確保する必要があります。その意味では、今回の東京マラソンでのペットボトルの回収の仕組みづくりのような活動は非常に重要です。いろいろな機会を見つけて、この輪を広げていきたいです。

当事者としての想いーーボランティアへのインタビュー

&+®によるサステナブルな取り組みについて、ボランティアの人々は当事者としてどのように感じているのでしょう。また、ボランティアを通してリサイクルへの意識は今後どう変化していくのでしょうか。ひとりではなく、みんなと一緒に取り組むことによりどんな効果が生まれるのかも、ぜひ注目したい点です。そこで、東京マラソン当日に給水所でペットボトルの回収を行っていたボランティアにインタビューしました。

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今回インタビューをしたのは、ボランティアに初めて参加した人から、8回参加しているベテランのボランティアまで計5名。ボランティアを始めた理由は「募集チラシを見て面白そうだと思ったので」「ボランティア自体が好きなので応募しました」「将来ランナーとして参加したいと思っています」などそれぞれの思いを語っていただきました。

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ボランティアをしていて嬉しかったこととして「ランナーに手を振りエールを送ると、手を振り返してくれること」「ランナーと笑顔で交流できたこと」「『あの日あの時にここにいた』という思い出が残ること」などの声があり、さまざまな人々とのコミュニケーションに喜びを感じている様子が感じられました。

自身が回収したペットボトルが、2年後にウェアとなって会場に戻ってくることに対しては、どう感じているのでしょう。「素晴らしい取り組みだと思います」「大会に戻ってくることを楽しみにしています」という声も多く、なかには「こんなに小さなものがウェアになって戻ってくるなんて」という驚いた表情を浮かべる人も。2年後にどうなるかを各自で想像しながら、やりがいを持って取り組んでいる様子が伺えました。

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今回インタビューを行ったのは、普段から分別回収に取り組むなどリサイクルへの意識の高い人たちばかり。「リサイクルの輪に参加している」ことへの感想について、「自分自身も小さなことから自然に参加できているというところがいいと思います」「自分が回収したものが戻ってくるなんて、その時になったら思いもひとしおですね」といった声もありました。

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では、今回のボランティアをきっかけに、リサイクルへの意識はどのように変わっていくのでしょうか。ボランティアのなかには「意識がより高まっていくと思います」「引き続き、分別回収などを行っていきたいです」と答えた人も多く、意識の高まりが期待できます。現場で実際に体験することでリサイクルへの理解が深まり、それが意識の変化にもつながっているようです。

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また、「以前はひとりでやっていても意味がないのではと思うことがありましたが、今回のようにみんなで取り組むことで、リサイクルへの意識についても変化が出るのではと感じます」という声も。今後の展開として、一人ひとりの意識の変化だけでなく、みんなで取り組むことによる相乗効果も期待できるかもしれません。

東京マラソンからはじまる、新しい未来とは

東レが考えるのは「リサイクルの輪に参加することによって、誰もが持続可能な社会を意識できる」という未来。東京マラソンのボランティアの声として「ボランティアウェアとして帰ってくると思うと、ペットボトルの回収し甲斐があります」というものがありました。最近は着なくなった洋服をリサイクルショップに持ち込む人も増えています。コロナ禍で自分の生活を見直すなかで「ものを大切にしなくては」「こんなに多くのモノは要らないのでは」「これはゴミではなく資源になるのでは」と思い始めた人は多いようです。最近のゴミの量は、相対的に減っているのではと思っています。こうした時代の変化を把握しながら、東京マラソンのボランティアなどたくさんの人たちと一緒に、新しい未来をつくっていきたいと考えています。

取材:ethica編集部

東レは東京マラソン2021の
オフィシャルパートナーです。